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当院が力を入れている間葉系幹細胞療法 MESENCHYMAL STEM CELL THERAPY

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間葉系幹細胞療法とは?

日本で再生医療や幹細胞と言えばiPS細胞がとても有名です。天然には存在しないので、患者様の細胞から人工的に作り出す必要があります。万能細胞なので期待はとても大きいのですが、製造費用や安全性確保など解決すべき課題も多く、動物病院での治療使用はまだまだ先になる見込みです。

間葉系幹細胞という別の幹細胞は、治療使用に最も実用的な幹細胞と考えられています。間葉系幹細胞は人間や動物の身体の中にもともと備わっている細胞です。人工的に作り出した細胞ではないので、身体に投与した場合の安全性も高いです。間葉系幹細胞はiPS細胞のように万能細胞ではないのでできることに限りはありますが、普段は組織の保護・修復や炎症の鎮静など、病気からの回復やメンテナンスなどで大きな役割を果たしています。

病気になったりケガをしてしまったときに、間葉系幹細胞を大量に集めて“レスキュー隊”のように身体に派遣(投与)してあげれば、病気やケガを治すために活躍してくれるはず ―― 簡単に言うと間葉系幹細胞療法はそのようなイメージの治療になります。

間葉系幹細胞療法は、基礎研究や人医療では世界中で研究や治療が進んでいます。日本の動物医療では当院を含めて設備を有する一部の動物病院が犬や猫の治療に取り入れてきていきます。

間葉系幹細胞療法とは?

間葉系幹細胞は身体のレスキュー隊!?

間葉系幹細胞療法を考える前に

どんな場合でも、まずは病気に対して確実な診断を行うことが大切です。もしこの点が間違ってしまっていると患者様を適切に治療できていないことになり、治せるものも治せないことにつながります。一般の治療でもそうですが、再生医療(間葉系幹細胞療法)という高度で高価な治療を行ううえではさらに重要になります。当院ではまずは確実な診断を行うように心がけています。

多くの身体の不調・病気は通常の治療(標準治療)で良くなります。標準治療は長い時間をかけて築き上げられ、万人が認めるものです。つまり、まずは標準治療が第1の選択です。それに対して、間葉系幹細胞療法は先進的な新規の治療法です。療法の治療効果は数多く確認されて疑いのないところですが、まだまだ膨大な治療実績と検証を積み重ねて、確立された万人が認める治療法になる必要があります。そのため、現在の治療現場ではまだ第1選択にはなり得ず、あくまで標準治療に対する“オプション治療”や“補助治療”の位置づけになります。

標準治療を以ってしても思うように良くならない・治らないような場合や、病気によっては有力な治療がない場合があります。そのような場合において、間葉系幹細胞療法の原理を考慮して治療効果が期待できるのであれば、治療選択肢になる可能性があります。加えて、治療初期から標準治療に補助的に間葉系幹細胞療法を組み合わせたほうがより良い結果(治療効果の増強、治療確実性の向上、ステロイド等の使用治療薬の減薬、など)につながると期待できるケースもあります。

どのような治療法もそうですが、このような点は獣医師の療法に対する深い理解や多大な実施経験に依るところが大きいところです。当院は多くの実施経験やリサーチを積んでおりますので、当院の間葉系幹細胞療法の受診をお考えの飼い主様におかれましてはご安心してご依頼いただければと考えております。

標準治療と再生医療(間葉系幹細胞療法)の位置関係

標準治療と再生医療(間葉系幹細胞療法)の位置関係

間葉系幹細胞療法にできること

間葉系幹細胞は以下の3つの方法で身体の修復や病気の回復に作用します

①抗炎症作用・免疫抑制作用:
炎症を鎮めたり、活性化している免疫細胞を抑える作用を発揮します
②組織保護・修復作用:
組織に血管を新しく作らせたり、組織の細胞を増殖させたり、弱っている細胞を死なないように指令を出して保護します。
間葉系幹細胞が組織の細胞に分化して修復する場合もあります。
また、傷ついた組織が治る際に硬くなって柔軟性を失わないようにする作用も発揮します
③免疫調整作用:
自己免疫疾患などで身体の免疫のバランスが悪い場合、免疫バランスを整えます

 病気や損傷に対する間葉系幹細胞の作用

病気や損傷に対する間葉系幹細胞の作用

間葉系幹細胞は優秀な“レスキュー隊”ではあるのですが、なんでもできるというわけではありません。得意な仕事も多いのですが、あまり得意ではない仕事やできない仕事もあります。例えば、間葉系幹細胞でがんはやっつけられません(むしろ、がんの成長を促す可能性があります)。修復が得意だからといって、脱臼に使うのかというと、そういうものではありません。間葉系幹細胞が修復できる範疇を大きく超えた状態の壊死を再生させることまではできません。

これらは幹細胞の能力というよりは、幹細胞を使う側(動物病院では獣医師)の判断によるところが大きいです。どのような場合(疾患・身体状態)に上のような性質を持っている間葉系幹細胞を使ってあげると患者様の利益になる効果が得られるのかを判断ができることが大切です。

これまでの獣医療・人医療の治療実績や基礎研究からは、おもなところでは、

・自己免疫疾患…免疫介在性多発性関節炎、炎症性腸疾患、など(抗炎症作用、免疫調整作用)
・臓器疾患…慢性肝臓疾患、慢性腎臓病、など(組織保護・修復作用)
・皮膚疾患…アトピー性皮膚炎、潰瘍、創傷、など(抗炎症作用、組織保護・修復作用)
・眼科疾患…乾性角結膜炎、角膜損傷、など(抗炎症作用、組織保護・修復作用、免疫調整作用)
・神経疾患…脳梗塞、椎間板ヘルニアや外傷などによる脊髄損傷、など(抗炎症作用、組織保護・修復作用)
・骨・軟骨関連…骨折癒合不全、骨や軟骨の欠損、など(組織保護・修復作用)

といった犬や猫の疾患に対して適応可能性があります(括弧内は治療で発揮されることが期待される間葉系幹細胞の作用です)。

間葉系幹細胞療法はとても新しい治療法で、現在も研究が進められています。適応できる疾患、もしくは適応が期待される疾患が今後も次々と示されるでしょう。なお、上述以外の疾患につきましても、これまでの動物医療での実績、基礎研究や人医療のリサーチ、療法の作用原理などを考慮して適応の可能性の有無を判断することができますのでご相談ください。

当院での間葉系幹細胞の適応状況

図はこれまで当院で実施した間葉系幹細胞療法(211件)の適応疾患分野の割合を示したものです。動物病院での間葉系幹細胞療法では、椎間板ヘルニア等による脊髄損傷や骨折癒合不全などの外科症例への適応が良く知られています。当院においてもそれらの症例について適応を行っています。これに加えて、当院では内科疾患に対しての適応も多いのが特徴です。なぜならば、先行する人医療や基礎研究では、免疫介在性疾患や炎症性臓器疾患などの内科疾患への適応が進んでいるからです。同様に犬や猫に対しても適応できる可能性が高いことになります。当院では内科疾患に罹患して苦しまれている犬や猫に対して、もし間葉系幹細胞療法の適応の可能性があればご提示できるように最新の調査を行っています。

また、さくら動物病院は長野どうぶつ再生医療センターとともに眼科センターを併設しています。眼科疾患には難治性の乾性角結膜炎(ドライアイ)や角膜損傷など間葉系幹細胞療法の適応が期待できるものが多く、眼科と再生医療の両方の専門性をフルに活かした適応が多いのもひとつの特徴です。「症例」の項において、その例をいくつか示してあります。

 当院で間葉系幹細胞療法を適応した疾患分野

 当院で間葉系幹細胞療法を適応した疾患分野

間葉系幹細胞の自家移植と他家移植

間葉系幹細胞療法には患者様自身の間葉系幹細胞を培養して投与する自家(じか)移植法と、
ドナー(他個体)の間葉系幹細胞を投与する他家(たか)移植法があります。

自家移植法

長所
・患者様自身の細胞を移植するため、移植細胞に対する拒絶反応がなく、効果が長持ちすると考えられています。投与した間葉系幹細胞は組織細胞に分化して定着することもできます

短所
・患者様の間葉系幹細胞を培養するためには、原料となる脂肪組織を患者様から手術で採取する必要があります。犬や猫では全身麻酔下で行う必要があるので、患者様に対して身体的に大きな負担になります
・すぐに間葉系幹細胞を投与することはできません。治療に十分な数の細胞が増えるまで、2週間ほど待つ必要があります
・患者様の体調や年齢などによっては間葉系幹細胞の培養がうまくいかなかったり、調製された細胞に機能低下などの問題があって、思うような治療効果が得られないリスクもあります。

他家移植法
自家移植法の使用上の短所を克服するため、ドナー由来の間葉系幹細胞を投与する他家移植法が確立されています。通常は、他者の細胞が身体に入ってくると、免疫細胞の拒絶反応により他家細胞は直ちに排除されてしまいます。ところが、間葉系幹細胞は特別な細胞で、他者の体内中でも免疫細胞から“直ちには”発見されません(それでも2, 3日ほどではだいたい見つかってしまいます)。他家・間葉系幹細胞には、その見つかってしまう前の間に治療効果を発揮してもらうのです。

長所
・細胞投与のための点滴または注射以外、患者様を侵襲することがありません
・基本的にはあらかじめ凍結保存しておいた他家・間葉系幹細胞ストックを解凍して用いるので、いつでもすぐに投与することが可能です

短所
・自家の間葉系幹細胞よりは短い時間しか効果を発揮できないので、治療効果は自家移植法よりも若干劣ると考えられています
・細胞分化による組織への定着は期待できません

とは言え、患者様を侵襲しないということを考えると、他家移植法は大変メリットのある方法と言えます。

間葉系幹細胞の自家移植と他家移植

間葉系幹細胞の自家移植法と他家移植法

間葉系幹細胞の調製

当院の治療用の間葉系幹細胞の培養は脂肪組織(0.5~2gほど、パチンコ玉~ビー玉程度)を原料として用います。身体の様々な組織に間葉系幹細胞は存在していますが、間葉系幹細胞の含有量は脂肪組織が顕著に多く、犬や猫からの組織の採取が容易だからです。自家間葉系幹細胞の調製では、全身麻酔下、手術により患者様の鼠径部の皮下脂肪を少量採取させていただいております。他家間葉系幹細胞の調製では、若くて健康な個体が避妊手術を行う際に、飼い主様にご理解いただき、脂肪組織を少し分けていただいております。

また、機会はとても少ないのですが、帝王切開による出産では、新生児から臍帯(へその緒)が切り離されて廃棄されます。この若さにあふれる臍帯にも間葉系幹細胞が多く含まれており、飼い主様のご協力のうえで臍帯間葉系幹細胞を培養することができます。臍帯由来の間葉系幹細胞は免疫の抑制に優れるサイトカインを多く分泌していることがわかっており、免疫異常が介在する疾患に対して特に効果が期待できると考えています。

当院では間葉系幹細胞の一般的な培養方法によって培養を行っています。培養を長く続けるほど細胞は劣化するので、当院では継代(細胞の植え継ぎ)を必要最低限の1回だけ行った世代の間葉系幹細胞を治療に用いています。

製造された治療用細胞は、間葉系幹細胞の性質(細胞の形態、サイズ、マーカー)を備えているかどうかどうかをフローサイトメトリー法という方法で製造ロットごとに検査確認をしています。また、治療に有益となる特定のサイトカインについてもその分泌能力を確認しています。

治療用細胞の性状や能力は、自家・間葉系幹細胞では患者様の体質や年齢などによって決まってしまうので、培養された性質の細胞を治療にお出しするほかはありません。一方で、他家移植法では、治療用細胞としての性質や能力を備えた間葉系幹細胞をお出しすることが必要と当院では考えています。そのため、これまでに積み上げてきた培養技術や上述した自主検査を通じて、できるだけ治療能力に優れた治療用細胞を培養してご提供し、飼い主様から信頼・安心いただけるように心がけています。

培養した犬の間葉系幹細胞とフローサイトメトリー検査

培養した犬の間葉系幹細胞とフローサイトメトリー検査

間葉系幹細胞の実施方法と安全性

当院ではいくつかの間葉系幹細胞の投与方法を準備しています。患者様の状態を考慮して、最適な投与方法をご提案しています。なお、投与においては、容器に付着している細胞を酵素で剥がして、バラバラ・球状になった細胞を投与します。

【静脈点滴投与】
間葉系幹細胞を生理食塩水に懸濁して、点滴と同様に投与するごく一般的な方法です。間葉系幹細胞は血流に乗せられて全身性に放たれます。そのため、内臓など体内にある組織にも間葉系幹細胞は到達することが可能です。加えて、間葉系幹細胞は自主的に損傷などの病変を感知して移動・集積する“ホーミング”と呼ばれる能力も備えているので、損傷・病変部位を効率よく治療すると考えられています。実施に要する時間は、間葉系幹細胞の投与に1~2時間、経過観察におよそ2時間かかります。当院では午前中から患者様を半日お預かりして、夕方お帰りになっていただくスケジュールで実施しています。

一方、間葉系幹細胞を静脈投与することで、肺の微細静脈に細胞や血栓が詰まるなどの肺塞栓症を誘発するリスクがある可能性がよく議論になります。大量の細胞や粗悪な細胞の投与、患者様の体質・体調が原因と考えられます。当院で静脈投与性の間葉系幹細胞投与を行う際には、動物看護師が動物のバイタルサインの取得および患者様の観察を行っています。当院でこれまでに行ってきた投与において、肺塞栓症のような異常兆候は観察されていません。そのため、当院での静脈投与性の間葉系幹細胞療法は高い安全性で実施できているものと考えています。

【病変局所投与】
皮膚潰瘍などの病変皮膚、骨折部位、乾性角結膜炎の涙腺など、局所的で体表から注射針のアクセスが容易な病変部位では、間葉系幹細胞溶液を注射によって標的部位に直接注入することが可能です。一般の注射と同様にごく短時間で終わります。経過観察は必要ありませんので、診察終了後にお帰りが可能です。溶液の注入によって一時的に腫れが出る可能性はありますが、長期的に注射部位の異常発生は観察されていませんので、安全性は高いと考えられます。

【筋肉内投与】
お尻またはその他の筋肉内に注射によって間葉系幹細胞溶液を置いてくる方法です。筋肉は多くの血管が走行している組織なので、間葉系幹細胞から分泌されたサイトカインがジワジワと血中に流れ出て、離れた部分にも作用して効果を発揮すると考えられています。作用効率は他の方法よりも劣る可能性がありますが、免疫細胞と接触確率が低いので排除されるまでの時間が延び、効果が長持ちすることが予想されます。当院ではおもに疾患状態を維持管理する目的で、病状に急を要さない場合に使用しています。一般の注射と同様にごく短時間で終わります。経過観察は必要ありませんので、診察終了後にお帰りが可能です。溶液の注入によって一時的に腫れが出る可能性はありますが、長期的に注射部位の異常発生は観察されていませんので、安全性は高いと考えられます。

静脈点滴投与と注射投与

静脈点滴投与と注射投与