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  • 長野どうぶつ眼科センター

皮膚疾患

皮膚疾患症例への投与①

 患者様(柴犬、9歳)は1歳でアトピー性皮膚炎を発症し、食事療法、減感作療法、シャンプー療法、ステロイド、免疫抑制剤など様々な治療を行いましたが、9年間改善がなく、飼い主様は困っておられました。当時、(マウスや人間の)アトピー性皮膚炎への間葉系幹細胞投与の効果を示した論文はわずかにあったものの、その効果については良くなるというものとあまり効果がないというものが混在していて、犬のアトピー性皮膚炎に対する効果は当院でも推測が難しいところでした。しかしながら、当院では経験的に間葉系幹細胞の投与が皮膚コンディションの改善に大きくつながるという手応えをつかんでいたので、長年改善がなくて困っていた飼い主様に間葉系幹細胞(他家)の投与を提案しました。
 まずは間葉系幹細胞の静脈点滴投与を約1週間隔で4回実施、その後は約1ヵ月間隔で投与を実施しました。1ヵ月経過するころには、全身各所の皮膚病変において明確な発毛・増毛、色素沈着の改善が見られました。さらに間葉系幹細胞療法を継続することで皮膚状態の改善がさらに進みました。通常、当院の治療用他家間葉系幹細胞は健常ドナーの脂肪組織から製造するのですが、この患者様の治療ではより強力な免疫調節作用を持つと考えられている臍帯間葉系幹細胞(新生誕生犬由来)を製造する機会があり、10回投与することができました。患者様の容貌的には大きな改善が認められたことは、飼い主様に一定の満足感を与えるものでありました。一方で、患者様の掻痒感は消失したわけではなく、患者が痒がる動作はみられます。
 間葉系幹細胞投与でアトピー性皮膚炎が根本的に改善したというよりは、患者様の皮膚状態が著しく改善したという感触です。皮膚状態が上がることは外部アレルゲン物質に対する皮膚バリア機能の向上につながるので、アトピー性皮膚炎の改善に貢献していく可能性が考えられます。最近ではマウスや人間でアトピー性皮膚炎に対する間葉系幹細胞投与の効果を調べた論文が多く発表されてきており、総じてアトピー性皮膚炎に対して改善効果があることを示しています。
 これはアトピー性皮膚炎とは関係ないのですが、この患者様は性ホルモン性尿失禁症も患っていました。飼い主様によると、間葉系幹細胞療法を行い始めてからいつの間にか症状が消えてしまったとのことです。

皮膚疾患症例への投与①

皮膚疾患症例への投与②

 患者様(日本猫、15歳)は(状況的に)猫どうしのケンカにより受傷・疲弊して動けなくなり、さらに時間が経って衰弱したところを発見・保護されました。尾の付け根付近に重度で化膿性・壊死性の傷があり、食欲・元気の消失、栄養失調、脱水、腎機能低下、貧血が見られ、衰弱していました。飼い主様は、患者様が高齢で傷がひどく、かなり衰弱してしまっていたので厳しい状態であることを理解されていましたが、それでもできるだけのことをしてほしいとのことでした。そのため、当院では強力な支持療法に加えて、傷を含めた様々な全身状態の回復補助のために間葉系幹細胞療法の実施をオプション治療として提案したところ、希望のある治療は是非実施してほしいとのことでした。
 入院のうえ、栄養補給、十分な水和、感染コントロールなどの支持療法を行いました。患者様の体調を考えて直ちに幹細胞を投与することも考慮したのですが、当院では一旦実施を見送る判断をしました。というのは、尾の付け根の傷は化膿がひどく、細菌が多い状態と考えられました。間葉系幹細胞は強力な免疫抑制の作用があるので、免疫の働きが弱くなって傷の細菌繁殖を助長して傷が悪化してしまうリスクを懸念したからです。しばらくは支持療法のみで経過を観察しました。すると、創傷の化膿と壊死が進行し、第7病日目には尾根部から背中にかけての広範囲にわたって皮膚を喪失してしまい、皮下組織及び筋層が露出した状態となりましたが、一方で化膿は落ち着きました。このタイミングで間葉系幹細胞療法(他家他家、点滴)の実施に踏み切りました。1週間後、傷の状態が非常に改善されていました。追加でもう一度、幹細胞を投与しました。一般的に、傷が閉塞する際に傷で肉芽が盛り上がるように形成されてしまい、周囲の皮膚が伸びて来れずに治りが遅れることが問題となることがあります。ところがこの患者様では大きい傷であったにもかかわらず患部外周での肉芽形成は最小限であり、患部周辺の真皮と表皮は順調に傷の内側に伸展していきました。第66病日には傷が完全に閉塞しました。形成された皮膚は色、柔軟性、平坦性など極めて良好な状態であり、肥厚などの異常もありませんでした。患者様の一般状態も著しく改善し、受傷する前よりも毛艶・歩様・元気・食欲等、QOLが向上しており、飼い主様は大変喜ばれました。
 傷の回復について、その後、興味深いできごとがありました。この患者様の治療の少し後に、患者様と同腹の兄弟猫が同様の状況(ケンカ)で背中に傷を負って来院されました。こちらの患者様は全身状態が良好であり、傷も比較的小規模だったので間葉系幹細胞療法を行うことはなかったのですが、傷の外周部に明確な肉芽の隆起ができてしまい、時間が経っても傷周辺の皮膚が伸びることができずに治癒がとても遅れてしまいました。間葉系幹細胞には組織をリモデリングする作用があるとされていますが、そのような作用がこのような違いを生み、傷の治りを助けてくれたのかもしれません。

皮膚疾患症例への投与②